五十音 百 — 長編小説
山路透は、自分が何者かを知らなかった。
「時が来たら、山へ行け」
戸籍はある。住所もある。普通の会社員として、普通に生きていた。ただ一つを除いて——満月の夜、必ず山の中を走る夢を見る。
立ち読み
第一章「サンカの血」
祖母が死んだのは、透が三十二歳の春だった。遺品の中に、古い木箱があった。
開けると、紙が一枚。文字ではなかった。記号だ。螺旋と、星と、見たことのない文様が、緻密に描かれていた。そして中央に、日本語でたった一行。
「時が来たら、山へ行け」
透は笑おうとした。笑えなかった。その夜、満月だった。
夢の中で、初めて声がした。遠くて、でも耳の奥に直接響く。言語ではないのに、意味がわかった。
「透。お前が最後のリンクだ」
目が覚めた。午前三時。スマートフォンに、知らない番号からメッセージが来ていた。送信時刻は、透が夢を見ていた時間と、完全に一致していた。
ウォッチャーが遺した子——ネフィリム。洪水で一掃されたはずの巨人は、絶滅していなかった。
五色人
日本から世界へ散った、五つの色の民
ムーが沈んだあと、彼らは世界各地へ渡り、文明を築いた。エジプトも、シュメールも、インダスも、その末裔たちだという。物語は、その五つの血を継ぐ者が、それぞれの場所で同時に詩を唱えるまでを描く。
- 黄
山路 透
東京。戸籍を持たない山の民サンカの血を継ぐ、最後のリンク。
- 青
アルジュナ
タミルの民。祖父の詩を、幼い頃から一言も違えず記憶している。
- 赤
レイニー
先祖の石板に刻まれた周波数の記録を、砂漠の地下から掘り出す。
- 白
エリック
歴史学者。科学にも精通している天才肌。
- 緑
ソフィア
ウォッチャーと娘の子ら=ネフィリムの末裔。
熊野、アイヌ、ハワイ、アボリジニ、ネイティブアメリカン——遠く離れた土地の神話が、なぜか同じ模様を持っている。

世界観
螺旋は、記憶の形をしている
木箱の紙に描かれていた文様。オベリスクの網。何万年も、命をかけて受け継がれてきた詩。ミステリーと古代史とSFが交差する場所に、この物語はある。
聖書には地球のことが、仏典には宇宙のことが書かれている——としたら。
四部作
全4部、完結済み。今すぐ無料で読めます
気に入ったら、そのまま最終部まで読み進められます。続きを待つことも、途中で終わってしまうこともありません。
- 第一部

五色の詩
「時が来たら、山へ行け」——祖母が遺した一行から、失われた大陸の記憶へ。
- 第二部

絵馬
遺跡の破壊、ユーフラテス川、黙示録の預言。一本の糸が繋がりはじめる。
- 第三部

杉の根
三十年間、計画の内側にいた男が、初めて地上を見た。
- 第四部

拓海
救世主は、ずっと自分の内側にいた。
五色だった。黄、青、赤、白、緑。人類の五色が、ひとつの物語に揃うとき——何かが動きだす。
第一部から最終部まで、無料で読めます。